2007年7月2日

ようやく論文レヴュー

このブログを立ち上げた最も大きな理由の一つである経済学の論文を紹介する論文レヴュー(放置プレイ)にあたって、ようやく第一回の最終ドラフト版が仕上がりました。
第一回は記念すべき第一回は、Mark Duggan and Steven LevittのWinning Isn't Everything: Corruption in Sumo Wrestling (download)です。
なぜか本文が無料でダウンロードできる、日本語の書籍ヤバい経済学において紹介されていること、偉大な学者の一人であるから、これを選びました。計量経済学というか線形回帰モデルをやった学部生ならば十分読めるローテクな論文ですので、ぜひ経済学部の学生はダウンロードして挑戦してもらいたいです。

経済学のバックグラウンドのある人向けのレジュメを作ったのですが、極力数式を使わないで読み物形式で読めるような紹介形式も作った方が良いかな、と思っています。
これから最終ドラフトを大学院の友人らに送信して、意見を求めます。
コンテンツ自体は近日公開予定です。

休みの日に論文を読んでいるサラリーマンって結構暗いよね、と思いました。他に楽しいことなかったんでしょうか。まあいいや。

2007年6月27日

都会のオアシス~音楽

森トラスト株式会社さんが主催、タリーズコーヒージャパンさんと過門香さん協賛のランチタイムコンサートに行ってきました。
森トラストさんが管理するビルのスペースで、毎週一度くらいのペースで無料コンサートをやっています。ビル内におけるストリートパフォーマンスに近い形式なので、仕事の都合で入退場も自由です。椅子も並べられているので、じっくり聞くこともできます。
今回私は赤坂ツインタワーのコンサートに行きましたが、立派な観葉植物が多く並べられており、こういうお洒落な場所にオフィスがあったらいいな、と思いました。
都会はギスギスしているというか、仕事の緊張感でピリピリしていることもあるので、私はこのようなリラックスできる企画が大好きです。仕事は相当のストレスを強いるものなので、長く続けるにはこのような気分転換が重要だと信じています。わが社ではタバコを吸ってリラックスする人が多いですが(サラリーマンはみんなそうなのか)、これも何だか非生産的なような感じです。

音楽つながりで続けると、先日私の地元にアマチュア・オーケストラがあること(こちら)を知りました。設立者守谷氏の言葉がこちらです。



ウィーンに留学していた時、片田舎の町に行っても、その町のオーケストラがあってね、演奏が終わると指揮者がおなかの大きい団員を紹介したりするんだ。いついつ赤ちゃんが生まれます、と。それが和やかでいいんだよね
(第1回定期演奏会プログラムより) 。
source: http://orchestra.musicinfo.co.jp/~miyamae/partners/partners.html#moriya


ヨーロッパには、彼らのようなアマチュア・オーケストラが小さな町にでもたくさんあるそうです。
一流のミュージシャンの演奏でなくても、特別お金がなくても、音楽を楽しみたいという気持ちは、全世界どんな民族にとっても共通です。地元でこんな団体があるとは夢にも思いませんでした。ぜひ、がんばって欲しいです。できれば、近々彼らの演奏を見に行きたいです。
もし自分が大富豪であれば、彼らに寄付をしたいとさえ考えています。彼らはアマチュアゆえに練習するのにも月謝を自己負担しなければなりません。確かにそれはアマとプロの差といえばそうなのですが、プロでなくてもミュージシャンとしての立場は同じだし、音楽の楽しさを伝えることは可能です。せめて、発表会に参加したら若干の報酬、少なくとも赤字にはならないくらいでもいいんじゃないか、と思いました。
こういう団体をNPO法人にするのはできないんですかね。私にはそのノウハウがありませんが、強い興味を持っています。まあビジネスと音楽は必ずしもその目的が一致しないので、メンバーは嫌がるかもしれません。
ただ、完全に道楽だけで演奏を続けることも、家族の理解なども含めてなかなか辛いのではないでしょうか。音楽は楽しいですが、このような趣味にあまりに夢中になることは、本業・本職を圧迫する可能性があります。趣味は趣味なのでお金にはなりません。月謝が5千円、演奏会に参加するにはさらにそれ以上の額を支払う(年間で最大10万円近く)というのは、趣味としてややお金がかかるかな、と思わないでもないです。趣味を続けるにも、ある程度のお金は必要ですからね。どうにかしてその兼ね合いを取れないのかな(そもそも彼らは取れているのかもしれないが)、と思いました。

2007年6月20日

ドリカムと株価の関係に反論中

というわけで、ドリカムと株価の記事に反論(こちら)の続きです。
今回は新聞記事(こちら)に対するもので、短いです。


《テレビアニメ「サザエさん」の視聴率が上がると、株価は下がりやすい》
 視聴率が高いということは、休日夜の早い時間から在宅者が多いということ。外食などして活発に動き回っておらず、人々の心理は前向きとはいえない。

この因果関係は謎ですね。
確かに外食すれば、外食産業の株価が上がってもおかしくありません。実際、週末こそ混雑しているレストランは少なくないですからね。
家族と団らんすることは、前向きな気持ちになる大切な時間と解釈できないのでしょうか。


《宝くじ人気が高まれば株価は下がる》
 宝くじ人気の上昇は「一発あてて会社を辞めよう」などという現実逃避の意識の高まり。人々の心理は後ろ向き。


株価人気の上昇は「一発あてて会社を辞めよう」などという現実逃避の意識の高まり。とも言えそうですけどね。宝くじと株価が代替的な存在だとすれば(同じ博打の対象)、家計の財布から、宝くじにより多く投資すれば、その分株式に投資できなくなるので、その結果株価は下がるのかもしれません。

《英会話学校とフィットネスクラブを比べ、前者に通う人の割合が増えれば、株価は下がる》
 英会話学校に通う理由の一つは「手に職をつけよう」といった不安感。

これも謎ですね。そもそも英会話学校に通うことで獲得できるスキルというのは英語でしょうけど、それを生かせる仕事というのは、英語の先生、通訳、翻訳などごく限られた職業に他ならないと思います。
あくまで私見ですが、英会話スクールに通う友人も何人かいますが、彼らの目的は英語を楽しむ、英語が好きな友人を作る、といったことが大きいようです。別に転職のためではないようです。
フィットネス・クラブに通う友人も何人かいますが、単純に健康のためや運動を楽しむためのようです。別に鍛えられた身体能力が求められる職業(スポーツ選手、消防士、肉体労働者)になろうとするわけではありません。

《東京ディズニーランドの入場者が増えれば株価が上がる》
 ディズニーランドで遊ぶにはお金もかかるし、歩き回るエネルギーも必要。気持ちの余裕や積極性が要る。

ディズニーランド自体は、最低限の生活を営む上では必要ないものです。したがって、ディズニーランドに通う人が増えている背景には、(可処分)所得の増加があるかもしれません。その他にも、消費や株式投資を増やす金銭的余裕があると推測されます。
まあ会社に行くにも何するにしても、エネルギーや積極性が必要ですよね。忙しいビジネスマンにとって、ただゆっくり休んで疲れを抜くことも、相当な積極性と気持ちの余裕が求められるかもしれません。
まとめ
こういうのに一つ一つ反論してもきりがないので、もうやめます。
相関係数だけで議論したいのならば、時系列や単位のそろった変数を闇雲に集めて、その相関係数行列をはじき出して、そのうち高いものをピックアップしてもっともらしいストーリーを後付けすれば、この手の主張はいくらでも生み出せます。
ごく数枚程度のレポートならばともかく、この結果をベースに議論を発展させていくと、前後の分析結果に整合性がなくなる(矛盾が出てくる)可能性があります。厳密に検証すべき仮説(分析目的)を設定し、それに最も適切な手法を選択しない限り、その結果は十分に信用できるものではない(つっこみどころが残されている)と批判されるかもしれません。当然、吉野氏のような雑な仮説に対して闇雲に計算した相関係数だけでは何もいえるわけがないです。

とちんたら反論していたら、今度はドリカムではなくてサザンオールスターズですか(こちら)。

ちなみに、何人かの友人にこのブログを紹介したら、暗に「もっとやれ!」といった指示というか、煽りというか、挑発というか、ありがたいメッセージというか、他人事だからなのか、とにかくご意見をいただきました。まあもう一回くらいならば、まともに反論できる余地はありそうな気がしますけどね。
それよりも、どうやってこのシリーズを終わらせるべきかの方が不安です。

2007年6月18日

DIRレポート(ドリカム人気と株価)に対するコメント

DIRのレポートに反論中というわけで、 完成版です。
 相関係数を算出し、ドリカム人気とTOPIX(以下、株価)が似たような動きをすると主張するレポートです(こちら)。
 もし学部時代に私がこのようなゼミ発表をすれば、指導教官に厳しい突込みを受けたはずです。 明日ゼミ発表で何もしていなくても、これならば一夜漬けでも完成できるくらいのクオリティと判断します。
直感・主観的に言えば、このレベルのレポートを書ける学部生は山のようにいます。しかし、これを十分に反論できる学部生は山のようにはいないと思います。
 ゼミ発表でどこかの研究所のレポートに反論するのも面白いかもしれませんね。このレポートは反面教師としての存在価値がありますが、反論の根拠を探すのはある程度の勉強量が求められるので、案外難しいものです。しかし、それができるようになれば非常に力がつくはずです。私も確か夏休みの課題でやらされました。あまりできませんでしたが…。
 ちなみに、ドリカムは海外でも活躍しているいわゆる実力派アーティストらしいですね。比較的テレビの露出が多いアーティストで、女性がカラオケでよく歌うこともあり、このレポートでも掲載されているヒット曲は聞いたことがあると思います。しかし、正直に言って私はドリカムのCDは一枚も持っていません。

相関係数の定義
 相関係数ρ(ロー)とは、ある2つの変数の線形的な結びつきの強さを示す指標です。ここでは、ドリカム人気(Xとする)と株価(Yとする)という2変数について、次のように定義されます。
 ここで、分子はドリカム人気Xと株価Yの共分散、分母はXの標準偏差とYの標準偏差です。
 本ブログにおいては、相関係数の数理的な議論はしないので、岩田(1983)などを参考にしてください。

相関係数利用の注意
 統計的手法を用いる卒業論文などで、相関係数が高いからといって大喜びする学部生もいますが、相関係数が決定的な分析になることはそれほど多くないと思います。むしろ、決定的な結論になる回帰モデルの前の一つのステップとして役立つことが多い気がします。
 確かに直感的にわかりやすい指標ではあるものの、特に以下の2点に注意する必要があります。
  • 線形関係の強さしか表していない
 もしドリカム人気と株価が非線形(2次以上の関係や指数など)関係がある場合、相関係数は関係を正確に説明できません。
 この問題を解決する手段の一つとして、まずは図示してみるということです。視覚的にデータの概要を直感的に把握することは、その他の分析においてもさまざまなヒントを与えてくれる可能性が高いです。
  • 因果関係は明示していない
 たとえば、気温とアイスクリームの売上の相関係数を調べてみれば、非常に強い正の相関関係があると考えられます。しかし、相関係数そのものからは、どちらが原因でどちらが結果なのかという因果関係はわかりません。
 この場合、アイスクリームの売上という結果の原因が気温であることは明らかでしょう。相関係数を知らない小学生でも、暑いから(原因)アイスクリームを食べたくなる(結果)ことくらいわかるはずです。アイスクリームを食べる(原因)と、気温が上がる(結果)というのはギャグですね。地球温暖化防止には、アイスクリームをこの世からなくすことが重要である、という法律が必要になります。 この場合、因果関係を判断するのは常識、人間の主観です。
 しかし、因果関係が直感的にわからないこともあります。たとえば、身長と足のサイズには強い正の相関があると思われます(家族や友人などを考えてみてください)。しかし、足が大きいから身長が高いのか(足が小さいから身長が低いのか)、身長が高いから足が大きいのか(身長が低いから足が小さいのか)という因果関係を特定するには、明らかに統計以外の知識が必要です(私も全くわかりませんが、身長も足の大きさも結果なのかもしれません。生物学の分野なのでしょうか。詳しい方教えてください)。しかし、両者に正の線形関係があることだけは明らかでしょう。相関係数を解釈しても、それ以上の主張はできません。
 そういえば、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル 第三部」の493ページ(文庫の第八版)で、相関関係と因果関係を間違えていましたね。純粋文系の人には違いがわからなかったのかもしれません。

僕があそこで殴り殺したものと、綿谷ノボルの昏倒のあいだには、必ず何か相関関係はあるはずだった。

村上春樹著 ねじまき鳥クロニクル 第三部 493ページ

 相関係数の値そのものは客観的な指標として信頼できますが、本当に相関関係を示しているかを判断するには、主観的な判断や他の領域の知識に頼らざるを得なくなったり、別の手法を用いて再考する必要もあります。
例を挙げましょう。データといえば、統計局ホームページから、なるべくこれを書いている人間の頭がおかしいと思われるようなぶっ飛んだデータを選んでみましょう。
 宗教団体の総数(こちら エクセルファイルです)と地方競馬観戦者数(こちら エクセルファイルです)のデータ1985~2001年まで17年分を拾って、相関係数を出してみました。すると、0.74となり強い相関関係にあることがわかりました。だからといって、競馬ファンが宗教団体を設立したり、宗教団体の設立者が競馬を見に行く傾向にあるというのも(多分)ないでしょう。あえて解釈をすれば、両者の変動は景気のトレンドとよく似た動きをしているのかもしれません。もし誰も気がつかない関係を発見すれば、それは面白いですね。
(注:サンプル数がやや少ないのは、データの都合上やむを得ませんでした。この場合、相関係数の値が重要なのではなく、適当に選んだ変数でもたまたま似たトレンドを示すことがある、ということを言いたいだけなので、卒業論文などでこれを真似しないでください。なお、用いたデータは、最後に掲載しておきます。)
 また、GDPと砂糖の消費量にも、特に80年代まではおそらく正の相関関係があります(と、学部の統計の先生が言っていました)。しかし、これらはただ同じような推移を示しているにすぎないのであって、解釈としては、せいぜい砂糖(終戦直後の豊かさのシンボル)を消費できるほど豊かな生活を送れるようになった、くらいしか言えないでしょう。 砂糖を消費すればGDPは上がるというのは、確かに間違っていませんが、景気予測の指標になるほど大きな割合は占めていません(むしろ無視できるほど小さいものではないでしょうか)。
 ちなみに、景気の予測モデルは、少なくとも数十本の連立方程式(民間消費、政府支出、貿易収支、民間投資、政府投資など)から構成されます。 こういった多くの変数が相互に複雑な関係を示している中で、景気(結果)を予測するのにどの指標が有意でどの程度効いてくるか(原因)を解明するのは、専門家でも難しいことですし、現在も研究中のトピックだと思われます。
 日本経済はバブル崩壊までは右肩上がりの成長を記録してきたので、良く似た正のトレンドを持つ経済指標も少なくありません。だからといって、相関係数だけから景気の予測指標になると主張するのは非常に乱暴です。
 TOPIXも景気と同じように最も総合的な指標の一つです。株価の予測モデルができれば、それは修士論文として十分通用するのではないでしょうか。当然のことながら、ドリカム人気というたった一つの指標との相関係数だけから、論文になるような決定的な解釈ができることはありえません。相関係数をエクセルで算出するだけなら、中学生でも簡単にできるでしょう。中学生が景気予測していたら、それは腰が抜けそうですね。

DIRのレポートに対するコメント
第一節について

・ドリカム不人気と株価の関係はないのか?
 好きというプラスの評価しか考慮していないようですが、嫌いというマイナスの評価は株価に影響を与えないのでしょうか。 彼らの主張の言い回しを変えれば、アンチ・ドリカム(ドリカム不人気) と株価には負の相関があると思われます。

・ドリカム以外にも株価との関係を持つタレントはいないのか?
 なぜ数多くのアーティストの中で、ドリカムだけが選ばれたのでしょうか。ドリカム以上(以下)に株価に影響を及ぼすアーティストもいるかもしれません。その意思決定のプロセスについても、なぜそうなるのかも非常に興味があります。

・「強い相関」ではなく、有意か?
 石村(1994)は学部レベルでもやや数学を使わない統計の本だと思われます。「強い」相関の定義がよくわかりませんが、普通重要なのは統計的に有意かどうか、です。
 私のネタ本は岩田(1983)の10.3節です。インターネットでわかりやすく記述されているページは(こちらこちら)などがあげられます。
帰無仮説:この相関係数は0である を検定してみましょう。DIRのレポートでは、相関係数がr=0.79 、サンプル数がn=11(図を見る限り、半年に一度の調査)なので、(1.5)式に代入すると、t=3.86となります。自由度9のt値は有意水準5%で2.262 、1%で3.250となります。したがって、有意水準1%でも帰無仮説が棄却されるので、ドリカム人気と株価は無相関ではない、ということがいえます。
 サンプル数が少なくても、相関係数自体が大きいので確かに統計的にも有意です。ただし、この2つの変数が2変量正規分布に従うという仮定を満たしていなければなりません(株価が正規分布に従う保証はありません)。岩田(1983)を読む限り、このt値は回帰モデルのスロープ・パラメータの検定と同じ要領で導出されています。
 蓑谷(1997)の3-4節で、決定係数の評価に際して、回帰モデルの自由度は少なくとも15以上あるべきで、5や6では信頼性が損なわれると述べています。このレポートの自由度9というのは、やや後者に近いようです。
 永田(2003)では、私が調べた限り、相関係数について十分な標本数について議論されていませんでした。しかし、その他の検定や私がこれまで勉強してきた限りでは、一般に標本数は少なくとも数十程度は必要です。
 また、後述のように標本選別バイアスの問題もあり、標本数の少なさが突っ込まれる可能性が高いです。

第二節について
 この節全体が全く意味不明ですし、著者が相関係数のことを本当にわかっているのか疑いたくなるような記述です。
 「ドリカム人気が上がった時~」というくだりは、相関係数が意味していることです。人気と株価は特に正の方向に強く反応するといいたいのでしょうか・・・。
上述のように、因果関係は相関係数から言えないので、最後のパラグラフ(投資家心理がどうこう)は著者たちの思い込みにすぎないのではないでしょうか。

・サンプル・セレクション・バイアスにすぎないのではないか?
 たまたま株価と人気の変動が似ていた期間だけを意図的に選んだために、この相関係数が高くなった可能性が考えられます。
 ちなみに、宗教団体の数と地方競馬入場者数の最初の一年目を削って1986~2001の16サンプルとすると、相関係数は0.78になります。サンプル数が少なくなるほど、一つのサンプル(特に外れ値)がより大きく分析結果に影響を与えることがあります。このレポートにおけるデータは、公正に抽出された信頼できるデータであると言えるでしょうか (このテレビタレントイメージ調査が学術的に正しいかどうかの議論は、私の勉強不足で省略します)。

・レポート自体が確証バイアスの典型的な例ではないか?
 この筆者がドリカムファンでその情熱でレポートを書いているのか、ドリカム関係者との癒着で書いているのかわかりませんが、たまたまドリカムと株価の相関係数が高かったのをあまりに喜びすぎて、反論を想定せず、早とちりして全世界に誤ったレポートを発信してしまった可能性があります。客観的な指標が相関係数だけという分析でレポートは書けません。主観で物事を語るのは、エッセイかストーリーです。
 友野(2006)によれば、行動経済学の観点から、これは確証バイアスと呼ばれています。

確証バイアスとは、いったん自分の意見や態度を決めると、それらを裏付ける情報ばかり集めて、反対の情報を無視したり、さらに情報を自分の意見や態度を補強する情報だと解釈するバイアスのことである。さらに、確証バイアスから自信過剰という傾向が生じることもわかっている。

行動経済学 経済は「感情」で動いている p.88 友野典男著
 学部時代の多変量解析の授業では、モデルの精度(決定係数)が高ければ良いモデルだと誤解する学生が非常に多かったです。予測という観点だけからすれば確かにそういえるのですが、論文では何を検証したいかという仮説の設定の方がはるかに重要です。期待する変数がなぜ有意にならなかったかを検討することで、モデルの改善や別の知見が得られることは珍しくありません。そのような試行錯誤なくして、まともなモデルは作れません。

第三節について
 ヒット作の定義(アルバムなら200万枚以上、シングルならば100万枚以上の売上)がなぜ本文のようになされるのか理由がよくわかりません。彼らの主張とたまたま一致する点があっただけではないでしょうか。しかも、サンプル数が一桁しかないので、この主張は全く信頼されない可能性が高いです。

まとめ
 本レポートによれば、サンプル数11と非常に小さい標本であるが、ドリカム人気と株価には統計的に有意で正の相関が見られました。
 しかし、サンプル・セレクション・バイアスの可能性やサンプル数の少なさもあり、ドリカム人気と株価の動きがたまたまこの期間は似ていることを示しているにすぎない、と私は反論します。この相関係数の値でさえ疑いの余地が残されているし、トレンドが似ているからといっても、相関係数だけからあたかも因果関係(人気が上がれば株価が上がるなど)があるように主張することは、あまりに乱暴すぎると思われます。仮にドリカム人気が株価を予測する重要な要素の代理変数だったとしても、ある程度壮大なモデルを構築して証明する必要があります。その因果関係を解明したら、それは立派な論文になるでしょう。
 経済学の観点から、ドリカム人気は直接の研究対象ではないので何もいえませんが、バブルでなく日本経済が実際の成長を反映して株高になれば良いと思います。

References
・経済分析のための統計的方法(第2版) 1983 岩田暁一 (こちら
・計量経済学(第三版) 1997 蓑谷千凰彦 (こちら
・サンプルサイズの決め方 2003 永田靖 (こちら
・すぐわかる統計解析 1994 石村 貞夫(こちら
・行動経済学 経済は「感情」で動いている 友野典男 (こちら
・ビデオリサーチ テレビタレントイメージ (こちら
・Business Media 誠:ドリカムの人気と株価の関係 (こちら
・ドリカムの人気と株価の関係(オリジナル・レポート こちら pdfファイル)
・青木繁伸ホームページ(こちら
・千野研究室(こちら
◇相関係数を算出するのに用いたデータ
年 宗教 地方競馬
1985 226088 12331717
1986 225855 12452509
1987 229548 12637482
1988 230128 12330471
1989 230267 12901738
1990 230704 13769991
1991 231022 14609328
1992 230900 14208793
1993 231019 13552078
1994 231428 12894560
1995 229969 12206509
1996 227558 12259034
1997 227100 12326000
1998 226984 11676678
1999 226597 11050704
2000 226117 9310874
2001 225885 8575942

2007年6月14日

仕事が降ってきた

先日上司にランチをご馳走になりました。正確に言うと、新人養育費(?)なるものが会社から支給されており、時々(月1,2程度)ランチに連れて行っておしゃべりをするという任務が上司にはあるそうです。すばらしい試みだと思います。
ただ食事をして雑談しただけで、会社からその費用が負担されているというのも何だかよくわかりませんね。まあチームワークや社内の雰囲気というのも重要な要素だ、ということにしておきましょう。

それがきっかけで、「今ちょっとわからないことというか専門家がいなくて…」みたいなことを切り出され、時系列で有名なHamilton(こちら)の一部を読むことになりました。たまたま私の本棚にこの本が入っているから、声をかけてみたそうです。ランチで釣られたような気がしないでもないですが…。
実はこの本は学部の先生からの頂き物で、まともに読んだことはありません。しかも、時系列は1つか2つくらいの授業しか受けたことがないので、特にマクロ計量系は詳しくはないです。
とはいえ、できる人がいないというのと、せっかくいただいたチャンスだということで挑戦しようと考えています。 私の自力だけでは難しいので、詳ししそうな人を誘って議論することで理解を深め合うつもりです。こういうのは、大学院と同じノリでいいですね。

法律の変化やイベント(テロやバブル崩壊など)によって、大きな構造変化がある場合のモデルみたいです。ARモデルなど一般の時系列モデルを拡張し、離散型確率変数として推移行列をかませるモデル、なのかもしれません(よくわかっていません)。
今月中に簡単に報告できるよう、がんばります。詳しい方教えてください。

2007年6月12日

DIRのレポートに反論中

DIRのドリカムと株価の関係というレポートに対して反論しています。ほぼ完成していますが、友人に送信して、コメントをいただいてからアップロードしたいと思います。

作業中にふと見つけましたIT Mediaの記事です(こちら)。レポートの著者の吉野氏は、サザエさんと株価の関係(こちら)の著者だとわかりました。このIT Mediaの記事もめちゃくちゃですが、何よりこのレポートと同じような手法でこの本を書いているとしたら(読者のコメントを読む限り、その可能性が高いです)、大変恐ろしいことです。腰が抜けそうになりました。

私は行動ファイナンスの専門家ではないのでよくわかりませんが、行動ファイナンスが行動経済学の一部(応用分野の一つ)だとすれば(多分そうみたいです)、サザエさんと株価の関係というのは、この分野の研究領域ではないはずです。行動ファイナンスはトリビアみたいな事象を発見する学問ではありません。
行動経済学については、今思うと修士時代に読んだ論文がそのジャンルに組み込まれていたのかも、という記憶があります。行動経済学は面白いので、入門書として友野氏の著書(こちら)を参考にしてください。近々この本の書評をしたいです。

最後に上述のIT Mediaの記事について

経済分析のファクターに投資家の心理や行動を織り込んだ学問は「行動ファイナンス」と呼ばれる。近年研究が盛んで、代表的な研究者である米国のダニエル・カーネマン氏は2002年にノーベル経済学賞を受賞した。
吉野さんの研究もこれに基づくわけだが、TOPIXとの相関などの中から発見した“法則”をいくつか別稿にまとめた。どうやら、投資家の行動が“外向き”になっているときは、株価も上がりやすいようだ。


この上半分はいいとして、吉野氏のやっていることは経済分析に基づかないため、主張や思い込みの類と言われてもやむをえないでしょう。投資家の心理や行動というのは、「外向き」という定義もよくわからないものではなく、たとえばリスク回避度や時間選好率といった従来の経済学では無視されてきた人間の感情・感覚です。行動経済学では、こういった目に見えない要素を肯定するために、心理学や医学などを取り込み、伝統的な経済学に反論しています。
現在研究中の学問とはいえ、しっかりと確立した学問であり、吉野氏のいうようなtriviaとは全く関係ありません。相関係数だけで物事を議論できるほど経済学は簡単ではありません。

2007年6月1日

スパーリング始めます

新コーナーのスパーリングです。

論文レヴューを公式戦として、ここスパーリングでは、適当な文献や記事を深く読み解くことで、公式戦に向けての練習とします。

  • 対戦相手は選んでいます
某兄弟のように、話題作りのために、適切な対戦相手を選んでおり、結果が見えている場合が少なくありません。パブリック・イメージ作りも重要なので、これに対する苦情は受け付けません。ただ、できる限り挑戦状(?)というか、面白い記事のお知らせは歓迎いたします。それに答えられるかどうかはわかりませんが。
  • レフェリーストップやセコンドのアドバイスは重要です
仮に私がノックアウトされても、試合中には本能で立ち上がって戦おうとしてしまうのがボクサーというものです。これ以上は危険だ、もっと別の作戦があるなどのアドバイスが第三者からいただけることは、大変貴重だと考えています。
つまり、私のコメントが的外れであることに自分で気がつかないことがあります。客観的なご意見やご質問をいただけることは、この上ない喜びだと考えています。

  • 対戦相手には感謝する
勉強の機会を与えてくださったスパーリング・パートナーには、感謝の気持ちでいっぱいです。私がノックアウトしようとされようと、それがお互いの現在の実力なので、それぞれ今後の課題として生かせば良いと思います。
最低限の礼儀として、お互いに敬意を払い、勉強させたいただいた、という気持ちを忘れないように心がけています。

それでは、第一回のスパーリングはDIRのドリカムと株価の関係(こちら)とします。すでにゴングは鳴っていますが、試合終了まではもう少し時間がかかりそうです。