2004年2月29日

理想のサッカー中継について

前書き
 私のサッカーレポートで「放送陣に対して」というコーナーを設け、試合と同じように批評をしているのは、放送スタッフはいわば調理人のようなもので、どんなに優れた食材(試合)であろうと、調理(放送)の技術が未熟であれば、せっかくの料理も台無しになってしまうからである。良い試合と良いサッカー番組には何かしら関連性があるだろう。テレビは視覚と聴覚に訴えかけられるメディアなのだ。実況なしでは専門知識を持たない大多数のファンが本来の楽しさを理解できない(私もレポートを書くのに困る)だろうし、下手くそな実況を90分間も聞かされて、悲しい気分になってしまうのも勘弁してもらいたい。これまで曲がりなりにもサッカーファンをやってきたが、自分がもし放送する立場だったら、こうすればもっとサッカーの魅力を伝えることができるのに、という意識を持って執筆してある。

試合前に必要な情報

 試合前に視聴者がアイドリングさせられる時間があるため、その暇な時間を利用するなどして、試合前にこれから楽しむ商品の正確な状態や価値を把握しておきたいものである。いざ試合が始まってしまうと、案外暇な時間は少ないので、やはり余裕があるうちに済ませておきたいものだ。

  1. 両チームのスタメン、サブ、特筆すべきキープレイヤー及び彼らのコンディション
  2. 監督の特徴
  3. 最近の戦績、対戦成績、時間帯別得失点
  4. 戦術の特徴(フォーメーションや攻撃のバリエーション)
  5. その試合のレギュレーション(規約)
  6. レフェリーと彼らの経験
  7. 天候とピッチコンディション
  8. 以上を踏まえた上で、解説者の試合予想
① スタメンはいわば商品そのもの、最も重要な情報の一つである。もちろん控えも大切なオプションとして無視してはならない。選手のコンディションは生ものであるが、日本代表のコンディションについては弱点を喋ってしまわないレベルのラフな情報で良い。中田英寿選手ら欧州組で例えると、いつ欧州から帰国したとか、合宿中の調子はどうだったか・・・など、いかに日本人トップクラスの選手であろうと絵に描いた餅でないかどうかは最低限確認したい。
② この監督は、これまでどのチームの監督を率い、実績やタイトルなども紹介したい。また、どういった点差のときにどういった選手交代をするのか、勝ち越している時にさらに得点を狙う攻撃的な考えなのか、それとも守備を固めるのか・・・などがわかれば、視聴者も監督の試合展開の読みを実感することができるかもしれない。
③ 代表レベルの試合はメンバーの入れ替わりが激しいが、とりわけ最近の試合の戦績とどういった時間帯に得失点が顕著であるかわかると、攻撃力が悪いのか、守備力がないのかポイントが絞られ、視聴者もよりメリハリを持って長い90分間を楽しめるのではないか。
④ A選手はフリーキックが得意で、B選手はヘディングが得意で、この二人が決定的なチャンスを演出しやすい、などの解説である。試合で予測できそうな主なコンビネーションを事前に頭の中に入れておけば、得意とする攻撃パターンを注意して見ることができる。
⑤ レギュレーションとは、選手交代は何人で、90分間戦ってドローの場合、延長がどうなるのかといった規則のことである。グループリーグならば突破条件や、その後のスケジュールなども意識した中期的な話も交えて欲しい。
⑥ 国際試合ともなれば、同じ宗教やより近い国のレフェリーのジャッジは偏る可能性がある。また、これまで何試合をジャッジしてきたかやジャッジの傾向もわかれば、反則についてもより一層理解しやすくなるのではないか。
⑦ 天候やピッチコンディションが変われば当然戦術も変わってくる。視聴者も監督となるべく同じような情報量を共有できるように努めたい。なお、スタジアムに日本人サポーターがどれくらいいるかなども重要になろう。
⑧ ここが解説者の腕の見せ所である。これだけ多くの項目について喋る時間があるかわからないが、せめてこれらを踏まえた要約くらいは視聴者にも伝えて欲しい。


試合中に必要な放送

試合中にも商品は目まぐるしい変化を続けている。視聴者は必ずしもコアなサッカーファンではないため、放送陣としては、その攻防がいかに味わい深いものであるか伝える義務がある。

  1. 誰がボールを持っているか(プレイしているか)
  2. 反則や負傷などで、プレイが止まってしまったときの解説
  3. 5分ごとのさまざまな集計
  4. 残り時間と得点
  5. テレビ画面では映らない選手のプレイ
① フジテレビの青嶋さんが、ボールの移り変わりを選手の名前を呼ぶことで示しているが、これは一つの理想型である。テレビ画面でも選手の顔や背番号がわからないことは珍しくないので、その点は放送陣に補ってもらいたい。
② スローのリプレイを利用しながら、厳密にどのような反則や負傷だったのかを検討する必要がある。ルールを完璧に理解している視聴者はまれであるので、プロの放送スタッフがわかりやすく解説するべきである。
③ 両チームのシュート数、パス成功数(率)、ボール支配率、空中戦の勝率、1対1の勝率など、基本的なデータの集計。これらの数値により、得点にまでは至らなくとも、微妙な攻防の様子がより鮮明に浮き上がってくる。5分という数値に必然性はない。私がレポート用のメモを取るとき、単に5分毎に決定的なシーンや重要なプレイなどを記録しているだけである。5分ならば90分間で18回、ロスタイムも合わせて約20回、何となく最も都合が良いような気がする。
④ 野球中継で、得点、スコアボード、配給のカウントなどが表示されなかったら、視聴者はクレームの電話を入れるだろう。視聴率稼ぎのためなのか、サッカーではスコアや残り時間を表示させないことがある。そのサッカー番組のプロデューサーはサッカーの面白さをわかっていないに等しいだろう。この情報は試合中必ず表示されていなければならない。
⑤ テレビ中継では、コートの全てを映すことは難しい。せいぜいボールを持っている選手とその周囲程度であるが、サッカーではボールを持っていない時間の方が圧倒的に長く、実はボールをもらうまでの動きにこそ重要なアイディアや戦術が隠されているものである。また、これは無意味にズームアップするカメラワークを防止する意味も込められている。

ハーフタイムに必要な情報
 視聴者はハーフタイムになると、裏番組を楽しむか、後半開始までテレビの前を離れ、他のことをやっている可能性が高い。「がんばれ日本!」とか「間もなくキックオフです!」などと無目的に叫ぶよりは、スポンサー様のためにも前半の解説をして、視聴者を番組からなるべく離さないようにすることもできる。

  1. 5分後の集計結果とその推移
  2. 負傷や退場など  
① 5分ごとのさまざまな集計結果がどのような推移を見せたのか、おそらく得点や調子の良い時間帯などと関連性があるはずだ。弱点さえも明らかになり、悪い選手交代などのきっかけを視聴者に意識付けできる。
② 前半にある選手が負傷交代すれば、その後の情報は気になるところである。残念ながら病院送りになったか、無事ベンチで観戦するくらいであったなど、何かしらは知りたいものだ。


 以上はあくまで現在の私が考えうる限りの知恵を絞って記述したものである。今後修正や訂正することもあるだろうが、より良い番組作りのためにもまずは皆様のご意見をお聞かせ願いたいばかりである。なお、金子達仁氏監修による参考資料なくして、この記事は書けなかったことを補足する。

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